不動産知識大全 業者が言わない数字まで、検算して解説する。
賃貸 8分で読めます 3,021字

賃料の増額請求と減額請求 ちんりょうのぞうがくせいきゅうとげんがくせいきゅう

賃料が不相当になれば、契約の条件にかかわらず将来に向かって増減を請求できる。協議が調わない間は相当と認める額でよいが、裁判で外れた分には年1割の利息が付く。

この記事の要点

  1. 「契約の条件にかかわらず」請求できる。ただし将来に向かってのみ
  2. 増額しない特約は条文が認めている。減額しない特約は条文に書かれていない
  3. 協議が調わない間は、請求を受けた側が「相当と認める額」で払う・受け取る
  4. 裁判で外れた分には、年1割の利息が付く
  5. 訴える前に、まず調停の申立てをしなければならない
目次(5項目)

家賃や地代は、契約したときの額のまま固定されるわけではありません。貸主からも借主からも、変えてほしいと求めることができます。

この権利を、条文では借賃増減請求権(しゃくちんぞうげんせいきゅうけん)といいます。借地借家法32条にあります。

もめたときにどう振る舞えばよいかまで、条文が決めています。 そこが実務では効きます。

契約書に何と書いてあっても、請求はできる

理由は3つに絞られています。

32条1項が挙げる理由
  • 租税その他の負担の増減(固定資産税が上がった、下がった)1 
  • 土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動1 
  • ★近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき1 

★「収入が減ったから」「ローンが苦しいから」は、ここに入りません。3つ目がいちばん使いやすい入口です。

★増額しない特約は条文にある。減額しない特約は無い

ただし書をもう一度読むと、名指しされているのは片方だけです。

32条1項ただし書が書いていること・書いていないこと

「一定の期間増額しない」特約

  • ★条文が「その定めに従う」と書いている
  • 借主にとって有利な特約なので、認められている
  • 「一定の期間」なので、無期限ではない

定期借家などで置かれることがある。

「減額しない」特約

  • ★条文に書かれていない
  • サブリースの事案で、最高裁が32条の適用を認めている
  • 賃料自動増額特約があっても、減額請求は妨げられない

契約書の文言だけでは、賃料の維持を担保できない。

減額請求を封じる特約は、条文の側に根拠がない。

サブリースの事案では、賃料自動増額特約があっても32条の適用は妨げられないと最高裁が判断しています(平成15年10月21日)。事件番号は不動産適正取引推進機構の一覧[4]で確認しました。判決は裁判所の判例検索[3]で、裁判年月日と事件番号から引けます。

この非対称が、サブリースの保証賃料が下がりうる理由です。 業者が特別なことをしているのではなく、建物の賃貸借に共通する仕組みです。

協議が調わない間は、自分が相当と思う額でよい

ここが実務でいちばん効きます。

協議が調わないとき(32条2項・3項)

請求されたのはどちらか

  • 増額を請求された(借主の側)

    裁判が確定するまで、相当と認める額を支払えば足りる

    • 提示された額を払う義務は、まだ無い
    • 自分が相当と考える額を払っていれば、不払いにならない
    • ★確定後、不足があれば年1割の利息を付けて支払う

    払わないのと、相当と認める額を払うのは違う。

  • 減額を請求された(貸主の側)

    裁判が確定するまで、相当と認める額の支払を請求できる

    • これまでどおりの額を請求し続けてよい
    • ★確定後、受け取りすぎがあれば年1割の利息を付けて返還する
    • 利息は「受領の時から」付く

    受け取り続けること自体は、違法ではない。

★どちらも「請求を受けた側が、自分の考える額で暫定的に処理してよい」という同じ形です。外れた分に年1割が付くところまで同じです。

「払わない」と「相当と認める額を払う」は、まったく違います。 前者は賃料の不払いで、正当事由を持ち出すまでもなく契約解除の理由になりえます。

★訴える前に、まず調停

賃料をめぐる順序
  1. 相手に請求する

    内容証明などで、いつ請求したかを残す。★「将来に向かって」の起点になる

  2. 協議する

    調わない間は、請求を受けた側が相当と認める額で払う・受け取る

  3. 調停を申し立てる前置

    ★訴えの前に必ず通る(民事調停法24条の2第1項)

  4. 調停が不成立なら、訴え

    裁判が確定すると、差額に年1割の利息が付いて精算される

★2つ目の期間が長引くほど、3つ目・4つ目で動く金額が大きくなります。

借地の地代(借地借家法11条)も同じ扱いです。 24条の2は11条と32条を並べて書いています。

貸す側・借りる側が、それぞれ確かめること

請求する前・請求された後に見るもの

★4つ目は貸主の側の資料ですが、借主も自分が借りている建物の課税台帳を閲覧できます(地方税法382条の2)。

固定資産税の評価額そのものを確かめる手続きは固定資産税の評価に不服があるときにまとめました。★借りている人も、その建物と敷地の台帳を閲覧できます。

更新のときにまとめて話が出ることもありますが、更新料と賃料の増減は別の話です。 更新料は契約で定めた金銭、賃料の増減は32条による請求です。

よくある質問

契約書に「賃料は変更しない」と書いてあれば、変わりませんか?
借地借家法32条1項は「契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる」としています。★ただし書は「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」と定めていて、条文が名指ししているのは増額しない特約だけです。減額しない特約については条文に書かれていません。サブリースの事案では、賃料自動増額特約があっても32条の適用は妨げられないと最高裁が判断しています(平成15年10月21日)。
さかのぼって値上げされることはありますか?
ありません。32条1項が「将来に向かって」と書いています。★請求した時点より前の賃料に効くものではありません。ただし請求の時点から裁判の確定までの分は、後から精算されます。2項・3項が、確定後に不足や超過があれば年1割の利息を付けてやりとりすると定めているためです。
値上げを求められたら、その額を払わないといけませんか?
払わなくてよいことになっています。32条2項が「増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる」としています。★自分が相当と考える額を払っていれば、賃料の不払いにはなりません。ただし、裁判が確定して既に支払った額に不足があったときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付けて支払わなければなりません(2項ただし書)。
値下げを求められた貸主は、どうすればよいですか?
32条3項が、減額を正当とする裁判が確定するまでは「相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる」としています。★これまでどおりの額を請求し続けても、それ自体は違法ではありません。ただし裁判が確定して、既に支払を受けた額が正当とされた額を超えるときは、その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付けて返還しなければなりません(3項ただし書)。
話がまとまらないとき、すぐ裁判にできますか?
できません。民事調停法24条の2第1項が「訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない」と定めています。★調停の申立てをせずに訴えを提起した場合、受訴裁判所はその事件を調停に付さなければなりません(2項本文)。調停に付することを適当でないと認めるときだけが例外です。借地の地代(借地借家法11条)も同じ扱いです。
どういう理由なら請求できますか?
32条1項が3つ挙げています。土地・建物に対する租税その他の負担の増減、土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、そして近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったことです。★「収入が減ったから」「ローンが苦しいから」は、条文の挙げる理由に入りません。近隣の同種の物件の賃料と比べてどうか、というのが最も使いやすい入口です。

出典 番号は本文中の [n] に対応します

  1. 借地借家法(平成三年法律第九十号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 平成3年

    確認日 2026-09-02

  2. 民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 昭和26年

    確認日 2026-09-02

  3. 裁判例検索

    裁判所

    確認日 2026-08-19

  4. 最高裁判例一覧(借地借家法)

    一般財団法人 不動産適正取引推進機構

    確認日 2026-08-26

この分野の全体像

関連する解説