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賃貸の全体像 ちんたいのぜんたいぞう

賃貸では、契約の前に決まることがほとんどを占める。借地借家法により借主は強く守られているが、費用の設計は契約書の書き方で決まるため、署名の前に確かめる必要がある。

この記事の要点

  1. 借地借家法により、貸主から契約を終わらせるには正当の事由が要る
  2. 借主から出ていくのは自由。この非対称が制度の設計そのもの
  3. 家賃の安さだけで比べない。礼金・更新料・保証料を含めた総額を年数で割る
  4. 原状回復は、通常の使用による損耗と経年変化は貸主の負担が原則
  5. 退去の立会いで、その場で金額に合意する必要はない
目次(10項目)

賃貸で判断が必要になる場面は、契約の前・住んでいる間・退去のときの3つです。

そしてこの3つは、重さが同じではありません。

借主は、構造として守られている

まずこれを押さえておくと、後の話が読みやすくなります。

貸主と借主の、非対称

貸主から終わらせる

  • 期間満了の1年前から6月前までの通知が要る
  • さらに正当の事由が必要
  • 立退料の申出も考慮の一要素とされる
  • 通知しただけでは終わらない

意図的にそうなっている。

借主から出ていく

  • 契約の定めに従って解約を申し入れる
  • 通常は1〜2か月前の通知
  • 理由は要らない
  • 更新の時期に関係なく出られる

住まいを失うことの重さに対応した設計。

契約の前に決まること1 ― 普通借家か、定期借家か

契約の型が違うと、住み続けられるかが変わる

普通借家

  • 貸主から更新を拒むには正当の事由が要る
  • 通知が無ければ法定更新される
  • 住み続けられる見込みが立つ

一般的な賃貸借。

定期借家

  • 期間の満了で確定的に終了する
  • 更新という概念が無い
  • 再契約できるかは貸主の意向による
  • 書面での事前説明が要件

家賃が相場より安いことがある。理由はここ。

契約の前に決まること2 ― 費用の総額

住む年数で、順位が入れ替わる

2年で退去

  • A 家賃8万・礼金2か月・更新料1か月 → 2,080,000円
  • B 家賃8.5万・礼金なし・更新料なし → 2,040,000円
  • ★Bが40,000円安い

初期費用が効いて、家賃の高いBが得。

4年住む

  • A → 4,080,000円
  • B → 4,080,000円
  • ★どちらも同額

ちょうど入れ替わる点。

6年住む

  • A → 6,080,000円
  • B → 6,120,000円
  • ★Aが40,000円安い

長く住むほど、家賃の安さが効く。

「更新料があるから損」でも「家賃が安いから得」でもありません。 何年住むかを決めてから比べる、というだけの話です。

更新料の有効性については、最高裁判所第二小法廷の平成23年7月15日判決が、契約書に一義的かつ具体的に記載され、額が高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り消費者契約法[4]10条により無効とはいえない、という趣旨の判断を示しています。判決は裁判所の裁判例検索[6]から裁判年月日と法廷で引けます。詳しくは更新料にまとめました。

契約の前に決まること3 ― 保証会社

契約の前に決まること4 ― 入居審査

貸す側が入り口で選別する、と書きました。その実際が入居審査です。

見られているもの

支払える見込み

  • 収入と家賃の釣り合い(月収の3分の1程度が目安とされる)
  • 勤務先と勤続年数、雇用の形態
  • 過去の家賃の支払いの状況

貸主・管理会社と保証会社が、それぞれ見る。

住まわせて問題がないか

  • 入居する人数と続柄
  • 使用目的(居住か、事務所利用か)
  • 連絡が取れる緊急連絡先があるか

建物の使い方に関わる部分。

契約の前に決まること5 ― 火災保険

住んでいる間 ― 更新の年に、支出が重なる

費用が重なるタイミング
  1. 入居時

    敷金・礼金・仲介手数料・前家賃・火災保険・保証委託料

    家賃の4〜6か月分になることがある

  2. 1年ごと

    保証委託料の更新

    年1万円前後が多い

  3. 2年ごと

    賃貸借契約の更新料、火災保険の更新

    更新料は家賃の1〜2か月分

  4. その月

    通常の月の1.3倍以上が出ていくことになる

    入居の時点で、更新の月を手帳に書いておく価値がある

退去のとき ― 原状回復

ここが最も揉めます。

どちらの負担になるか

貸主の負担(原則)

  • 家具の設置による床のへこみ
  • 日照による畳や壁紙の変色
  • 冷蔵庫やテレビの背面の電気ヤケ
  • 次の入居者を確保するための化粧直し

通常の使用による損耗と経年変化。

借主の負担になりうる

  • 引っ越し作業でつけた傷
  • 結露を放置したことによるカビやシミ
  • 掃除を怠ったことによる油汚れ
  • ペットによる傷やにおい

通常の使用を超える使い方によるもの。

貸す側から見ると、同じ構造が逆に働く

投資用の物件を持つ場合、この点は収支に直接効きます。

貸す側で見ておくこと

家賃保証(サブリース)が提示されている場合は、賃料の見直し条項があるかを必ず確かめてください。空室の危険を引き受けてもらう代わりに賃料の一部を渡す取引であり、渡している額を把握していれば判断できます。詳しくはサブリースにまとめました。

判断の順序

借りる側が、契約の前にやること

6つ目はその日にしかできません。 鍵を受け取ったら、荷物を入れる前に撮ってください。

よくある質問

賃貸で最初に確かめるべきことは何ですか?
普通借家か定期借家かです。普通借家なら、貸主から更新を拒むには正当の事由が必要で、住み続けられる見込みが立ちます。定期借家は期間の満了で確定的に終了し、更新という概念がありません。再契約できるかは貸主の意向によります。家賃が相場より安い物件は、この違いが理由であることがあります。契約書の表題と条項で確かめてください。
初期費用はどう比べればよいですか?
家賃・礼金・更新料・保証料を合計し、住む予定の年数で割ってください。家賃8万円・礼金2か月・更新料1か月(2年ごと)の物件と、家賃8.5万円で礼金も更新料も無い物件では、2年で退去するなら後者が4万円安く、6年住むなら前者が4万円安くなります。4年でちょうど入れ替わります。募集広告の家賃は、比べるための数字ではありません。
敷金は必ず返ってきますか?
敷金は預り金であり、賃貸借が終了して明渡しがされたときは、未払い賃料などを差し引いた残額を返還するものと民法に定められています。したがって原則として返ります。争いになるのは、原状回復の費用として差し引かれる額の範囲です。国土交通省のガイドラインは、通常の使用による損耗と経年変化は貸主の負担とする考え方を示しています。
更新料を払う義務はありますか?
法律に支払義務を定めた規定はありません。契約書に条項があって初めて発生します。最高裁判所第二小法廷の平成23年7月15日判決は、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項について、額が高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り消費者契約法10条により無効とはいえない、という趣旨の判断を示しました。つまり条項があれば原則として有効です。
家賃を滞納したらどうなりますか?
保証会社が貸主へ立て替え、その後に借主へ請求します。立て替えは代位弁済であり、債務が消えるわけではありません。請求してくる相手が貸主から保証会社に変わるだけです。なお最高裁判所第一小法廷の令和4年12月12日判決は、家賃債務保証業者の無催告解除権付与条項と明渡しみなし条項について、消費者契約法10条により無効とし使用の差止めを認めました。実力での追い出しは許されません。

出典 番号は本文中の [n] に対応します

  1. 借地借家法(平成三年法律第九十号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 平成3年

    確認日 2026-08-19

  2. 民法(明治二十九年法律第八十九号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 明治29年

    確認日 2026-08-18

  3. 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

    国土交通省 住宅局 平成23年8月(再改訂版)

    確認日 2026-08-19

  4. 消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 平成12年

    確認日 2026-08-19

  5. 住宅:家賃債務保証業者登録制度

    国土交通省

    確認日 2026-08-19

  6. 裁判例検索

    裁判所

    確認日 2026-08-19

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