賃貸の全体像 ちんたいのぜんたいぞう
賃貸では、契約の前に決まることがほとんどを占める。借地借家法により借主は強く守られているが、費用の設計は契約書の書き方で決まるため、署名の前に確かめる必要がある。
この記事の要点
- 借地借家法により、貸主から契約を終わらせるには正当の事由が要る
- 借主から出ていくのは自由。この非対称が制度の設計そのもの
- 家賃の安さだけで比べない。礼金・更新料・保証料を含めた総額を年数で割る
- 原状回復は、通常の使用による損耗と経年変化は貸主の負担が原則
- 退去の立会いで、その場で金額に合意する必要はない
目次(10項目)
賃貸で判断が必要になる場面は、契約の前・住んでいる間・退去のときの3つです。
そしてこの3つは、重さが同じではありません。
借主は、構造として守られている
まずこれを押さえておくと、後の話が読みやすくなります。
貸主から終わらせる
- 期間満了の1年前から6月前までの通知が要る
- さらに正当の事由が必要
- 立退料の申出も考慮の一要素とされる
- 通知しただけでは終わらない
意図的にそうなっている。
借主から出ていく
- 契約の定めに従って解約を申し入れる
- 通常は1〜2か月前の通知
- 理由は要らない
- 更新の時期に関係なく出られる
住まいを失うことの重さに対応した設計。
契約の前に決まること1 ― 普通借家か、定期借家か
契約の前に決まること2 ― 費用の総額
2年で退去
- A 家賃8万・礼金2か月・更新料1か月 → 2,080,000円
- B 家賃8.5万・礼金なし・更新料なし → 2,040,000円
- ★Bが40,000円安い
初期費用が効いて、家賃の高いBが得。
4年住む
- A → 4,080,000円
- B → 4,080,000円
- ★どちらも同額
ちょうど入れ替わる点。
6年住む
- A → 6,080,000円
- B → 6,120,000円
- ★Aが40,000円安い
長く住むほど、家賃の安さが効く。
「更新料があるから損」でも「家賃が安いから得」でもありません。 何年住むかを決めてから比べる、というだけの話です。
更新料の有効性については、最高裁判所第二小法廷の平成23年7月15日判決が、契約書に一義的かつ具体的に記載され、額が高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り消費者契約法[4]10条により無効とはいえない、という趣旨の判断を示しています。判決は裁判所の裁判例検索[6]から裁判年月日と法廷で引けます。詳しくは更新料にまとめました。
契約の前に決まること3 ― 保証会社
契約の前に決まること4 ― 入居審査
貸す側が入り口で選別する、と書きました。その実際が入居審査です。
支払える見込み
- 収入と家賃の釣り合い(月収の3分の1程度が目安とされる)
- 勤務先と勤続年数、雇用の形態
- 過去の家賃の支払いの状況
貸主・管理会社と保証会社が、それぞれ見る。
住まわせて問題がないか
- 入居する人数と続柄
- 使用目的(居住か、事務所利用か)
- 連絡が取れる緊急連絡先があるか
建物の使い方に関わる部分。
契約の前に決まること5 ― 火災保険
住んでいる間 ― 更新の年に、支出が重なる
入居時
敷金・礼金・仲介手数料・前家賃・火災保険・保証委託料
家賃の4〜6か月分になることがある
1年ごと
保証委託料の更新
年1万円前後が多い
2年ごと
賃貸借契約の更新料、火災保険の更新
更新料は家賃の1〜2か月分
その月
通常の月の1.3倍以上が出ていくことになる
入居の時点で、更新の月を手帳に書いておく価値がある
退去のとき ― 原状回復
ここが最も揉めます。
貸主の負担(原則)
- 家具の設置による床のへこみ
- 日照による畳や壁紙の変色
- 冷蔵庫やテレビの背面の電気ヤケ
- 次の入居者を確保するための化粧直し
通常の使用による損耗と経年変化。
借主の負担になりうる
- 引っ越し作業でつけた傷
- 結露を放置したことによるカビやシミ
- 掃除を怠ったことによる油汚れ
- ペットによる傷やにおい
通常の使用を超える使い方によるもの。
貸す側から見ると、同じ構造が逆に働く
投資用の物件を持つ場合、この点は収支に直接効きます。
家賃保証(サブリース)が提示されている場合は、賃料の見直し条項があるかを必ず確かめてください。空室の危険を引き受けてもらう代わりに賃料の一部を渡す取引であり、渡している額を把握していれば判断できます。詳しくはサブリースにまとめました。
判断の順序
6つ目はその日にしかできません。 鍵を受け取ったら、荷物を入れる前に撮ってください。