不動産投資の全体像 ふどうさんとうし
不動産投資とは、不動産を取得して賃料収入や売却益を得ること。利益は保有中の収支と売却時の差額の合計で決まり、片方だけを見ると判断を誤りやすい。
この記事の要点
- 利益は「保有中の収支」と「売却時の差額」の合計で決まる。片方だけでは判断できない
- 買った瞬間に、その投資の成否のかなりの部分が決まっている
- 借入は利益も損失も同じ倍率で拡大する。片側だけが増えることはない
- 保有中に自動で悪くなる要素と、自分で動かないと良くならない要素がある
- 税は消えるのではなく、売却時へ繰り延べられる部分がある
目次(12項目)
不動産投資とは、不動産を取得して賃料収入や売却益を得ることです。
この文だけなら簡単に見えます。実際に判断が難しいのは、利益がいつ・どこで確定するのかが分かりにくいからです。ここでは、お金の流れを購入・保有・売却の3つに分けて通しで見ていきます。
利益がどこで決まるのか
通算の損益 = 保有中の収支の累計 + (売却価格 − 残債 − 売却費用 − 税)
- 保有中の収支の累計
- 家賃から経費と返済を引いた額を、保有期間ぶん足したもの
- 売却価格
- そのときの相場で決まる。こちらでは決められない
- 残債
- 返済を続ければ確実に減る。ここだけは計画できる
- 売却費用
- 仲介手数料など
- 税
- 譲渡所得への課税
前半だけを見ると「毎月赤字だから失敗」に見え、後半だけを見ると「売れば取り返せる」に見える。両方を足して初めて答えが出る。
だからこそ、分かる部分(保有中の収支と残債の減り方)を正確に出しておく意味があります。分からない部分に賭ける幅を、自分で決められるようになるためです。
第1段階:買うとき
価格が決まる取り返せない
取得価格は、その後のすべての利回り計算の分母になる。ここが高ければ、あとで何をしても利回りは上がらない
借入の条件が決まる借り換えなら変えられる
金利・期間・借入額。毎月の返済額と、残債の減り方がここで固定される
諸費用を払う
登記費用、仲介手数料、不動産取得税、印紙税など。中古では物件価格の6〜9%程度が目安とされる
立地と建物が決まる取り返せない
家賃の水準も、将来の売れやすさも、ここでほぼ決まる。あとから動かせない
4つのうち3つは、買った時点で変えられなくなる。だから購入前の検討にかける時間が、そのまま結果に効いてくる。
買った瞬間に、その投資の成否のかなりの部分が決まっています。 保有中に努力できることは、空室を埋めることと繰上返済くらいです。価格と立地は動かせません。
借入は、両方向に効く
良いほうへ
- 自己資金が少なくても大きな物件を持てる
- 自己資金に対する利益率が上がる
- 家賃で他人の資本を返していく形になる
- 団信が付けば、万一のとき残債が消える
悪いほうへ
- 空室でも返済は待ってくれない
- 家賃が下がっても返済額は下がらない
- 変動金利なら、金利上昇がそのまま効く
- 売却価格が残債を下回ると、現金を足さないと売れない
最後の1つが、出口を塞ぐ最大の要因になる。
借入は倍率をかける道具です。利益だけを拡大して損失は拡大しない、という使い方はできません。
住宅ローンの実際の利用状況は住宅金融支援機構のフラット35利用者調査[1]に公表されています。投資用ローンとは条件が違いますが、借入額と返済負担率の分布は、返済の重さを考える手がかりになります。
第2段階:持っているあいだ
保有中に起きることは、大きく2つに分かれます。
何もしなくても起きる
- 家賃が築年数とともに下がる
- 修繕積立金が長期修繕計画にもとづいて上がる
- 設備が古くなり、交換の時期が来る
- 入居者が退去し、空室の期間が生じる
- 固定資産税は毎年かかり続ける
放っておくと、収支は悪くなる方向へ動く。
自分で動かないと起きない
- 繰上返済で返済額を減らす
- 借り換えで金利を下げる
- 募集条件を見直して空室を埋める
- 設備を更新して賃料を維持する
いずれも、こちらが手を打って初めて起きる。
この非対称が、収支の見積もりで最も見落とされるところです。契約時の収支が35年続く前提は、現実的ではありません。
修繕積立金については国土交通省がガイドライン[2]で専有面積あたりの目安を示しています。現在の額がその目安を下回るなら、値上げを見込んでおく必要があります。
毎月の収支と、帳簿上の所得は違う
保有中の説明をわかりにくくしているのが、この2つのずれです。
| 減価償却 | ローンの元金返済 | 何を表すか | |
|---|---|---|---|
| 手元の収支 | 入らない | 出ていく | 財布から出入りする額 |
| 帳簿上の所得 | 経費になる | 経費にならない(利息だけ) | 税の計算に使う額 |
減価償却[3]は現金が出ていかないのに経費になり、元金の返済は現金が出ていくのに経費になりません。そのため、手元は赤字なのに帳簿は黒字、あるいはその逆、という状態が普通に起きます。
「黒字なのに手元にお金が残らない」という話は、多くの場合この差を指しています。
第3段階:売るとき
税の面では、譲渡所得[4]の計算で取得費から減価償却費相当額を差し引きます。保有中に多く償却したほど、売却時の所得は大きくなります。所有期間が5年を超えるかどうかで税率も変わり、判定は売った年の1月1日時点で行います。
相場の推移は東日本不動産流通機構の統計[6]などで確認できます。ただし平均の動きと、自分の物件の値付けは別です。同じ建物・同じ間取りの売出事例を見るほうが直接的です。
種類ごとの性質
区分マンション(1室)
- 少額から始めやすい
- 空室になると収入がゼロになる
- 修繕の時期も金額も管理組合が決める
- 売りやすいが、価格の上限も見えやすい
一棟アパート・マンション
- 空室の影響が分散される
- 修繕も建て替えも自分で決められる
- 必要な自己資金と借入が大きい
- 買える人が限られるため、売るのに時間がかかる
このほか、戸建の賃貸、J-REIT、不動産小口化商品があります。
なぜ不動産だけ、借金をして買うのか
株や投資信託を買うために銀行から数千万円を借りる人は、まずいません。不動産だけがそうなっているのには理由があります。
担保に取れる貸せる理由
返済が滞れば、抵当権にもとづいて競売にかけ、優先的に回収できる。逃げも隠れもしない資産である
価値の見積もりがしやすい
近隣の取引事例と賃料から、いくらで換金できるかを見積もれる。株価のように1日で半分にはなりにくい
家賃という返済原資がある
借り手の給与だけでなく、物件自体が生む収入も返済に充てられる
だから長期・低金利で貸せる
30年を超える借入が成り立つのは、この3つが揃っているためである
借りられるのは、借り手の信用だけでなく、物件が担保として評価されているから。
ここから2つのことが導けます。
1つ目。融資が付きにくい物件は、売るときも買い手が限られます。 再建築ができない土地、築年数の古い建物、借地権の物件などがこれにあたります。利回りが高いのは、この換金しにくさの裏返しでもあります。
2つ目。借入の条件は、その物件がどう評価されたかを映しています。 期間が短い、金利が高い、頭金を多く求められる——いずれも、貸す側がその物件を慎重に見ているという合図です。条件だけを不満に思うのではなく、なぜその条件になったのかを尋ねてみる価値があります。
よく聞く説明を、中身から見る
勧誘の場でよく出てくる説明を4つ取り上げます。いずれも嘘ではありません。ただし、そのままでは判断の材料になりません。
| 説明 | 事実として正しい部分 | 確かめること |
|---|---|---|
| 月々わずか◯円で持てる | 月額の計算は合っていることが多い | 同じ金額を返済期間ぶんの総額に直すといくらか |
| 生命保険の代わりになる | 団信が付けば、万一のとき残債は消える | 同じ保障を掛け捨ての保険で買った場合の保険料と比べていくらか |
| 節税になる | 損益通算の仕組みは実在する | 自分の所得で計算した還付額はいくらか。償却が終わった後はどうなるか |
| 家賃保証があるから安心 | 空室でも一定額は入る | 賃料の見直し条項の有無、頻度、下限。保証額は相場に対していくらか |
勧誘を受けたときに、確かめること
最後の点は宅地建物取引業法[5]にもとづくものです。詳しくは重要事項説明にまとめました。
ほかの投資と、どこが違うのか
同じ「投資」でも、性質はかなり違います。優劣ではなく、扱い方が違うという意味で押さえておく価値があります。
不動産の特徴
- 借入を使って、自己資金より大きな額を動かせる
- 一つひとつが違う(同じ物件は二つとない)
- 売るのに数か月かかる。買い手が見つからないこともある
- 分割して一部だけ売る、ということができない
- 保有しているだけで税と管理費がかかる
換金しにくい代わりに、価格が日々乱高下しない。
株式・投資信託の特徴
- 原則として自己資金の範囲で買う
- 同じ銘柄なら誰が買っても同じもの
- 市場が開いていれば、その日のうちに売れる
- 1株単位で一部だけ売れる
- 保有しているだけの費用は信託報酬程度
すぐ売れる代わりに、価格が日々動く。
とくに効いてくるのが、分割して売れないことと売るのに時間がかかることです。
株なら「半分だけ売って現金を作る」ができます。不動産ではできません。現金が要るときに売ろうとしても、買い手が現れるまで数か月かかり、その間も返済は続きます。急いで売ろうとすると、価格を下げるしかなくなります。
この性質があるため、不動産投資では「いつでも売れる」前提を置かないほうが安全です。手元にどれだけ現金を残しておくかが、株式投資より重い意味を持ちます。
最初にやること
物件を探すより先に、やっておくと効くことが2つあります。
自分の許容額を決める物件を見る前に
毎月いくらまで持ち出せるか、その総額はいくらまでか。金額を紙に書いておく
地域の相場を、自分で計算してみる
興味のある地域の売出物件を10件ほど拾い、家賃と価格から利回りを出す。数字の感覚がつく
提示された物件を、同じ計算にかける
相場の中でどの位置にあるかが見える。高いか安いかを、自分の根拠で言えるようになる
出口を先に考える
何年後にいくらで売れれば通算で黒字か。残債の減り方と並べて見る
1 と 2 は、勧誘を受ける前にやっておける。やっておくと、話を聞く姿勢が変わる。
計算そのものは難しくありません。手出しシミュレータと実質利回り計算機に条件を入れれば出ます。入力した内容は送信されません。