心理的瑕疵と告知義務 しんりてきかしとこくちぎむ
国土交通省のガイドラインが告知の範囲を示している。「概ね3年」は賃貸だけの線で、売買には期間の定めが無い。聞かれた場合は期間に関わらず告げる必要がある。
この記事の要点
- 「概ね3年」は賃貸だけの線。売買には期間の定めが無い
- 買主・借主から問われた場合は、経過期間や死因に関わらず告げる必要がある
- 自然死と日常生活の中での不慮の死は、原則として告げなくてよい
- 告げる中身は4つだけ。氏名や具体的な死の態様は告げる必要がない
- ガイドラインに従っても、民事上の責任は回避できないと明記されている
目次(8項目)
心理的瑕疵(しんりてきかし)とは、建物や設備そのものに欠陥は無いのに、そこで起きた出来事のために心理的な抵抗が生じる事情のことです。過去にその物件で人が亡くなった、といった事実を指します。
告知義務は、それを買主・借主に伝える義務のことです。
★見ても分からないので、告げられるかどうかがすべてになります。 どこまで告げる必要があるかを、国が示しています。
何が瑕疵で、何が告知義務か
心理的瑕疵とは、建物や設備そのものに欠陥は無いのに、そこで起きた出来事のために心理的な抵抗が生じる事情のことです。物理的な欠陥ではないので、見ても分かりません。
- 雨漏り・シロアリ → 見れば分かる。調査もできる1 33.3%
- 越境・私道の負担 → 登記簿と図面で分かる1 33.3%
- 心理的瑕疵 → 告げられなければ、知る手立てが無い1 33.3%
★売主・貸主と業者の側にしか情報が無い。だから告知の範囲が問題になります。
宅建業者の側から見ると、これは宅地建物取引業法[2]47条1項1号ニの問題です。取引条件などのうち「相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」について、故意に事実を告げないことを禁じています。
ただし47条1項1号ニは「重要な影響を及ぼすこととなるもの」としか書いていません。人の死がそこに当たるのかは、条文からは決まりません。 そこを埋めるために作られたのが、国土交通省の人の死の告知に関するガイドライン[1](令和3年10月)です。
★「概ね3年」は、賃貸だけの線である
ガイドラインが「告げなくてもよい場合」として挙げているのは3つです。
① 自然死・日常生活の中での不慮の死
- 老衰、持病による病死
- 自宅の階段からの転落
- 入浴中の溺死や転倒事故
- 食事中の誤嚥
★売買・賃貸の両方。ただし特殊清掃等が行われた場合は②へ。
② 賃貸で、①以外の死または特殊清掃等
- 発生から概ね3年を経過した後
- 特殊清掃等が行われた①の死は、発覚から3年
- 日常生活で通常使用する共用部分も同じ扱い
★この3年は、賃貸借取引にしか置かれていない。
③ 隣接住戸・通常使用しない共用部分
- そこで①以外の死が発生した場合
- そこで特殊清掃等が行われた場合
- 売買・賃貸の両方
隣の部屋の事案は、聞かなければ出てこない。
★①〜③のいずれでも、事件性・周知性・社会に与えた影響等が特に高い事案は、この限りではないとされています。
★②の3年は「賃貸借取引の対象不動産において」と書かれています。
売買については、ガイドラインは期間の線を置いていません。「何年経ったら告げなくてよい」という基準が示されていないということです。
聞けば、期間に関わらず答えなければならない
ここが実務でいちばん効きます。
事案の有無について、こちらから問うたか
問うた
経過期間や死因に関わらず、告げる必要がある
- 「告げなくてよい場合」に当たっていても、聞かれれば答える
- 調査を通じて判明した点を告げる
- 不明・無回答なら、その旨を告げれば足りる
★聞くかどうかで、出てくる情報が変わる。
問うていない
4.(1)の場合分けにしたがう
- 自然死・日常生活の中での不慮の死は出てこない
- 賃貸で3年を過ぎた事案も出てこない
- 隣の部屋の事案も出てこない
業者が黙っていることが、規則違反とは限らない。
★社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合も、告げる必要があるとされています。
★「言われなかった」と「無かった」は違います。
気になるなら、契約より前に、書面で聞いてください。 告知書(物件状況等報告書)は売買では一般に使われている書面です。
出てくる中身は、4つだけ
★売主・貸主・管理業者に照会した内容を、そのまま告げるべきものとされています。
業者に、自分で調べる義務は無い
つまり、業者が知らなかった場合、その多くは規則違反になりません。 告知書に記載されなかった事案が後日判明しても、重大な過失がない限り、調査は適正になされたものとされます。
★周辺住民への聞き込みや、インターネットの調査を行う義務もありません。
★ガイドラインに従っても、民事の責任は消えない
これがいちばん見落とされている点です。
何についての話か
宅建業法上の義務
ガイドラインが解釈の基準を示している
- 47条1項1号ニの「重要な影響を及ぼす事項」の範囲
- 違反すれば行政処分と刑事罰(79条の2)
- 名宛人は宅地建物取引業者
ガイドラインが埋めているのは、この部分だけである。
民事上の責任
依頼の内容や契約の内容から、個別に判断される
- 売主自身が負う責任は、宅建業法とは別の話
- 契約の内容に適合しないとして争われることがある
- 信義則上の告知義務が問題になることもある
★ガイドラインに沿った対応でも、責任を回避できるとは書かれていない。
売主が個人の場合、宅建業法47条の名宛人ではありません。それでも民事の責任は残ります。
売買で問題になるのは契約不適合責任です。民法[3]566条は、種類・品質に関する不適合について買主が不適合を知った時から1年以内に通知しなければ責任を追及できないとしています。ただし売主が知っていた場合や重大な過失で知らなかった場合は、この制限が適用されません。
★「告げなかった」場合は、この例外に当たりうるということです。
ガイドラインが扱っていないもの
★結びに、対象外が3つ明記されています。
- 人の死が生じた建物が取り壊された場合の、土地の取引1 33.3%
- 搬送先の病院で死亡した場合の取扱い1 33.3%
- 転落により死亡した場合の、落下開始地点の取扱い1 33.3%
一般的に妥当と整理できるだけの裁判例や実務の蓄積が無いため、としています。
★「更地なら告知不要」と書いた説明を見かけますが、ガイドラインはそう書いていません。 扱っていない、と書いています。判断の基準が示されていない領域です。
また、ガイドラインの対象は居住用不動産です。オフィス等として用いられる不動産は、契約締結の判断に与える影響が一様でないとして対象外とされています。
買う側・借りる側の順序
★2つ目が要点です。「聞かなかったから出てこなかった」は、規則の上では業者の落ち度になりません。
重要事項説明は「契約を締結するまでの間」に行われるものですが、実務では契約の直前です。詳しくは重要事項説明にまとめました。そこで初めて聞くと、判断の時間がありません。