不動産知識大全 業者が言わない数字まで、検算して解説する。
売買・契約 13分で読めます 5,067字

不動産売買契約の全体像 ふどうさんばいばいけいやく

不動産の売買契約は、申込・契約・決済の3段階で進む。段階ごとに「決まること」と「取り返せなくなること」が違い、抜けられる条件と費用も変わる。

この記事の要点

  1. 申込・契約・決済の3段階。段階が進むほど、抜けるときの費用が上がる
  2. 重要事項説明と売買契約書は別のもの。前者は契約前、後者が契約そのもの
  3. 抜ける道は3つ。手付解除、ローン特約による白紙解除、違約金を払う解除
  4. 買主が調べられることの多くは、契約前にしか調べられない
  5. 費用は契約時と決済時に分かれて出ていく。総額を先に把握しておく
目次(15項目)

不動産の売買は、申込・契約・決済の3段階で進みます。

段階ごとに「決まること」が違い、「抜けるときの費用」も変わります。全体を先に見ておくと、どの場面で何を確かめればよいかが分かります。

全体の流れ

申込から引渡しまで
  1. 買付証明書を出す抜けても費用0

    「この条件で買いたい」という意思表示。法的な拘束力は原則として無い

  2. 住宅ローンの事前審査

    借りられる見込みを確かめる。この結果を持って交渉に入るのが通常

  3. 重要事項説明を受ける契約の前

    宅地建物取引士から、契約前に説明を受ける。制度上、質問できる場

  4. 売買契約を結び、手付金を払うここが分かれ目

    ここから拘束される。抜けるには手付放棄か違約金

  5. 住宅ローンの本審査

    通らなければローン特約により白紙解除できる(期限内なら)

  6. 決済・引渡し完了

    残代金を払い、登記が動き、鍵を受け取る

4段階目より前は費用をかけずに抜けられる。以降は費用が発生する。

第1段階:申込

買付証明書に拘束力は無い

購入申込書、買受証明書とも呼ばれます。原則として法的な拘束力はありません。 出した後に撤回しても、それだけで損害賠償の責任を負うことは通常ありません。

売主の側にも、受け取ったから売らなければならない義務は生じません。

とはいえ、書いた条件は交渉の起点になり、そのまま契約書へ流れることが多い。価格・手付金の額・引渡し時期・ローン特約の期限は、出す前に見ておく価値があります。

事前審査を先に通しておく

順序として、事前審査を先に通しておくと交渉が進みやすくなります。売主から見れば、資金の裏づけがある買主のほうが確かだからです。

第2段階:契約

重要事項説明と売買契約書は、別のもの

同じ日に続けて行われることが多いため混同されますが、性質が違います。

2つの文書の役割

重要事項説明

  • 契約する前に、判断に必要な事実を説明させる手続き
  • 宅地建物取引業者に課された義務
  • 説明するのは宅地建物取引士
  • 買主が「不要」と言っても省略できない

判断のための材料を渡す場。

売買契約書

  • 買主と売主の約束そのものを書いた文書
  • 当事者の合意にあたる
  • 署名すると拘束される
  • 特約の内容は当事者が決められる

約束を確定させる場。

重要事項説明は宅地建物取引業法[2]35条にもとづくもので、説明すべき事項も法律に列挙されています。詳しくは重要事項説明にまとめました。

契約書で、必ず確認する4か所

署名の前に、この4つの数字と日付を押さえる

1つ目と3つ目は日付、2つ目は金額、4つ目は期間です。いずれも契約書に書かれており、契約前に確認できます。

抜ける道は3つある

契約後に抜ける3つの道

費用が軽い順に

  • ローン特約による白紙解除 → 手付金は全額返る
  • 手付解除 → 手付金を放棄する
  • 合意解除 → 条件は交渉次第

期限内であることが前提。

費用が重い

  • 違約金を払っての解除 → 代金の20%など
  • 相手の債務不履行を理由とする解除 → 争いになる

期限を過ぎた後は、こちらしか残らない。

手付[1]については民法557条に定めがあり、実務では契約書に日付で期限を書きます。詳しくは手付金にまとめました。

第3段階:決済と引渡し

決済の日に起きること
  1. 集合

    買主・売主・仲介業者・司法書士が金融機関に集まる

    融資を受ける金融機関の一室で行うことが多い

  2. 書類の確認

    司法書士が登記に必要な書類を確認する

    ここで問題がないことを確かめてから、融資が実行される

  3. 融資の実行と支払い

    残代金、固定資産税の精算金、仲介手数料などを支払う

    売主のローンが残っていれば、この代金で完済して抵当権を抹消する

  4. 引渡し

    鍵と関係書類を受け取る

    登記は司法書士がその日のうちに申請する

この順序に意味があります。 司法書士が書類を確認してから融資が実行されるため、「代金を払ったのに登記が動かない」という事態を防いでいます。登記原因証明情報[4]を含む書類が揃っていることを、その場で確認します。

仲介手数料の仕組み

諸費用のなかで最も大きいのが仲介手数料です。上限が法律で決まっています。

仲介手数料の上限(速算式)

上限 = 売買代金 × 3% + 6万円 + 消費税

対象
売買代金が400万円を超える場合
3%
正確には価格帯ごとに率が分かれており、この式はそれをまとめたもの
6万円
価格帯ごとの差を調整する定額分

これは上限であって、定価ではない。国土交通省の告示による。

とはいえ、実際には上限どおりで請求されるのが通常です。値引きを求めるかどうかは、その仲介がどれだけ働いたかとの兼ね合いになります。

内見でできること、できないこと

物件を見る機会は、契約前に限られています。何を見るかを決めておくと、限られた時間が生きます。

内見のときに、その場で確かめられること

最後の1つは見落とされがちですが、管理組合の状態を映す鏡です。掲示板に修繕の議事や督促が貼られていれば、そこから分かることがあります。

一方で、内見では分からないことも多くあります。壁の中、床下、配管の内部、隣人。これらは書面(重要事項説明・付帯設備表・物件状況報告書)で確かめるしかありません。だから書面を読む時間が要ります。

費用は、いつ・いくら出ていくのか

諸費用の内訳の例(中古住宅・物件価格3,000万円の場合の目安)
  • 仲介手数料(速算式の上限)1,056,000円
  • 登記費用(登録免許税+司法書士報酬)400,000円
  • 不動産取得税(軽減の適用による)300,000円
  • ローンの事務手数料・保証料700,000円
  • 印紙税・火災保険料など200,000円

あくまで規模感を示すための例。税率・軽減措置・金融機関により大きく変わる。実額は見積書と課税明細で確認すること。

出ていく時期が分かれている

契約のとき

  • 手付金(代金の一部に充当される)
  • 印紙税
  • 仲介手数料の半金(契約時に半分とする場合)

まとまった現金が最初に要る。

決済のとき

  • 残代金
  • 登記費用
  • ローンの事務手数料・保証料
  • 火災保険料
  • 固定資産税の精算金
  • 仲介手数料の残り

ここが最も大きい。

不動産取得税だけは、引渡しの数か月後に来ます。 忘れたころに納税通知書が届くため、諸費用の計算から落ちやすい費目です。

売主が個人か業者かで、保護の厚さが変わる

これは中古住宅を買うときに効いてきます。

宅建業法の保護は、業者が売主のときの決まり

業者が売主

  • 手付は代金の2割まで
  • 一定額を超える手付金等には保全措置が必要
  • 契約不適合責任は引渡しから2年以上
  • クーリング・オフが使える場合がある

買主を保護するための決まりが働く。

個人が売主

  • 手付の額に法律上の上限は無い
  • 保全措置の義務は無い
  • 契約不適合責任を数か月に限る特約も可能
  • 免責の特約が置かれることもある

契約書の条項が、そのまま効く。

条文は宅地建物取引業法[2]、解釈は国土交通省の解釈・運用の考え方[3]にあります。詳しくは契約不適合責任にまとめました。

売主が誰かは、重要事項説明で分かります。 個人が売主でも問題があるわけではありませんが、確認できることの範囲が変わります。

引渡しの後に、まだ残っていること

鍵を受け取れば終わり、ではありません。数か月にわたって続きがあります。

引渡しの後に来るもの
  1. 引渡しの直後

    電気・ガス・水道の開始手続き、住所の変更

    火災保険の始期が引渡し日になっているかも確認する

  2. 1〜2週間後

    登記識別情報(権利証にあたるもの)が届く

    再発行できない。保管の場所を決めておく

  3. 数か月後

    不動産取得税の納税通知書が届く

    忘れたころに来る。諸費用の計算から落ちやすい

  4. 翌年

    固定資産税の納税通知書が届く(毎年1月1日時点の所有者へ)

    引渡し年の分は決済時に日割りで精算している

  5. 翌年の確定申告

    住宅ローン控除を受ける場合、初年度は確定申告が必要

    2年目以降は年末調整で足りる(給与所得者の場合)

売るときのことも、買うときに決まっている

最後に、出口の話を1つだけ。

買った価格と、そのときの取得費[5]は、売却時の税の計算に使われます。譲渡所得は「収入金額 −(取得費+譲渡費用)」で計算し、建物部分の取得費は減価償却した分だけ小さくなります。

つまり購入時の契約書は、10年後・20年後に必要になる書類です。売買契約書、仲介手数料の領収書、登記費用の明細。これらを失うと、取得費を証明できず、税が重くなることがあります。

よくある質問

買付証明書を出したら、もう断れませんか?
断れます。買付証明書には原則として法的な拘束力がありません。売主の側にも、受け取ったから売らなければならない義務は生じません。ただし価格や引渡し時期の交渉はこの書面を起点に進み、書いた条件がそのまま契約書へ流れることが多いため、出す前に内容を確かめる価値はあります。
重要事項説明と売買契約書は何が違うのですか?
重要事項説明は「契約する前に、判断に必要な事実を業者から説明させる」ための手続きです。売買契約書は当事者の約束そのものを書いた文書です。前者は宅地建物取引業者に課された義務、後者は買主と売主の合意にあたります。同じ日に続けて行われることが多いのですが、性質は別です。
契約後にローンが通らなかったら、手付金はどうなりますか?
ローン特約が付いていて、その期限内に融資が承認されなかった場合は、契約が白紙解除となり手付金は全額返るのが通常です。ただし期限を過ぎてから否決された場合は白紙解除ができず、手付解除か違約金の話になります。金融機関の審査にかかる期間と、特約の期限が合っているかを契約前に確かめてください。
諸費用はいくらくらい見ておけばよいですか?
中古の住宅では物件価格の6〜9%程度が目安とされますが、物件の種類・価格帯・仲介の有無で変わります。主な内訳は仲介手数料、登記費用(登録免許税と司法書士報酬)、不動産取得税、印紙税、ローンの事務手数料と保証料、火災保険料です。契約時と決済時に分かれて出ていくため、いつ何がいくら必要かを先に一覧にしておくと安全です。
個人が売主の中古住宅を買うときの注意点は?
宅地建物取引業法の保護の多くは、売主が業者の場合の決まりです。手付の2割上限、手付金等の保全措置、契約不適合責任を引渡しから2年以上とする義務は、個人が売主なら適用されません。契約不適合責任を数か月に限る特約や免責の特約が置かれることもあります。契約書の該当条項を必ず確認してください。

出典 番号は本文中の [n] に対応します

  1. 民法(明治二十九年法律第八十九号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 明治29年

    確認日 2026-08-18

  2. 宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 昭和27年

    確認日 2026-08-18

  3. 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(令和8年4月1日施行版)

    国土交通省 令和8年4月1日施行版

    確認日 2026-08-18

  4. 不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 平成16年

    確認日 2026-08-18

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