不動産売買契約の全体像 ふどうさんばいばいけいやく
不動産の売買契約は、申込・契約・決済の3段階で進む。段階ごとに「決まること」と「取り返せなくなること」が違い、抜けられる条件と費用も変わる。
この記事の要点
- 申込・契約・決済の3段階。段階が進むほど、抜けるときの費用が上がる
- 重要事項説明と売買契約書は別のもの。前者は契約前、後者が契約そのもの
- 抜ける道は3つ。手付解除、ローン特約による白紙解除、違約金を払う解除
- 買主が調べられることの多くは、契約前にしか調べられない
- 費用は契約時と決済時に分かれて出ていく。総額を先に把握しておく
目次(15項目)
不動産の売買は、申込・契約・決済の3段階で進みます。
段階ごとに「決まること」が違い、「抜けるときの費用」も変わります。全体を先に見ておくと、どの場面で何を確かめればよいかが分かります。
全体の流れ
4段階目より前は費用をかけずに抜けられる。以降は費用が発生する。
第1段階:申込
買付証明書に拘束力は無い
購入申込書、買受証明書とも呼ばれます。原則として法的な拘束力はありません。 出した後に撤回しても、それだけで損害賠償の責任を負うことは通常ありません。
売主の側にも、受け取ったから売らなければならない義務は生じません。
とはいえ、書いた条件は交渉の起点になり、そのまま契約書へ流れることが多い。価格・手付金の額・引渡し時期・ローン特約の期限は、出す前に見ておく価値があります。
事前審査を先に通しておく
順序として、事前審査を先に通しておくと交渉が進みやすくなります。売主から見れば、資金の裏づけがある買主のほうが確かだからです。
第2段階:契約
重要事項説明と売買契約書は、別のもの
同じ日に続けて行われることが多いため混同されますが、性質が違います。
重要事項説明
- 契約する前に、判断に必要な事実を説明させる手続き
- 宅地建物取引業者に課された義務
- 説明するのは宅地建物取引士
- 買主が「不要」と言っても省略できない
判断のための材料を渡す場。
売買契約書
- 買主と売主の約束そのものを書いた文書
- 当事者の合意にあたる
- 署名すると拘束される
- 特約の内容は当事者が決められる
約束を確定させる場。
重要事項説明は宅地建物取引業法[2]35条にもとづくもので、説明すべき事項も法律に列挙されています。詳しくは重要事項説明にまとめました。
契約書で、必ず確認する4か所
1つ目と3つ目は日付、2つ目は金額、4つ目は期間です。いずれも契約書に書かれており、契約前に確認できます。
抜ける道は3つある
費用が軽い順に
- ローン特約による白紙解除 → 手付金は全額返る
- 手付解除 → 手付金を放棄する
- 合意解除 → 条件は交渉次第
期限内であることが前提。
費用が重い
- 違約金を払っての解除 → 代金の20%など
- 相手の債務不履行を理由とする解除 → 争いになる
期限を過ぎた後は、こちらしか残らない。
手付[1]については民法557条に定めがあり、実務では契約書に日付で期限を書きます。詳しくは手付金にまとめました。
第3段階:決済と引渡し
この順序に意味があります。 司法書士が書類を確認してから融資が実行されるため、「代金を払ったのに登記が動かない」という事態を防いでいます。登記原因証明情報[4]を含む書類が揃っていることを、その場で確認します。
仲介手数料の仕組み
諸費用のなかで最も大きいのが仲介手数料です。上限が法律で決まっています。
上限 = 売買代金 × 3% + 6万円 + 消費税
- 対象
- 売買代金が400万円を超える場合
- 3%
- 正確には価格帯ごとに率が分かれており、この式はそれをまとめたもの
- 6万円
- 価格帯ごとの差を調整する定額分
これは上限であって、定価ではない。国土交通省の告示による。
とはいえ、実際には上限どおりで請求されるのが通常です。値引きを求めるかどうかは、その仲介がどれだけ働いたかとの兼ね合いになります。
内見でできること、できないこと
物件を見る機会は、契約前に限られています。何を見るかを決めておくと、限られた時間が生きます。
最後の1つは見落とされがちですが、管理組合の状態を映す鏡です。掲示板に修繕の議事や督促が貼られていれば、そこから分かることがあります。
一方で、内見では分からないことも多くあります。壁の中、床下、配管の内部、隣人。これらは書面(重要事項説明・付帯設備表・物件状況報告書)で確かめるしかありません。だから書面を読む時間が要ります。
費用は、いつ・いくら出ていくのか
あくまで規模感を示すための例。税率・軽減措置・金融機関により大きく変わる。実額は見積書と課税明細で確認すること。
契約のとき
- 手付金(代金の一部に充当される)
- 印紙税
- 仲介手数料の半金(契約時に半分とする場合)
まとまった現金が最初に要る。
決済のとき
- 残代金
- 登記費用
- ローンの事務手数料・保証料
- 火災保険料
- 固定資産税の精算金
- 仲介手数料の残り
ここが最も大きい。
不動産取得税だけは、引渡しの数か月後に来ます。 忘れたころに納税通知書が届くため、諸費用の計算から落ちやすい費目です。
売主が個人か業者かで、保護の厚さが変わる
これは中古住宅を買うときに効いてきます。
業者が売主
- 手付は代金の2割まで
- 一定額を超える手付金等には保全措置が必要
- 契約不適合責任は引渡しから2年以上
- クーリング・オフが使える場合がある
買主を保護するための決まりが働く。
個人が売主
- 手付の額に法律上の上限は無い
- 保全措置の義務は無い
- 契約不適合責任を数か月に限る特約も可能
- 免責の特約が置かれることもある
契約書の条項が、そのまま効く。
条文は宅地建物取引業法[2]、解釈は国土交通省の解釈・運用の考え方[3]にあります。詳しくは契約不適合責任にまとめました。
売主が誰かは、重要事項説明で分かります。 個人が売主でも問題があるわけではありませんが、確認できることの範囲が変わります。
引渡しの後に、まだ残っていること
鍵を受け取れば終わり、ではありません。数か月にわたって続きがあります。
引渡しの直後
電気・ガス・水道の開始手続き、住所の変更
火災保険の始期が引渡し日になっているかも確認する
1〜2週間後
登記識別情報(権利証にあたるもの)が届く
再発行できない。保管の場所を決めておく
数か月後
不動産取得税の納税通知書が届く
忘れたころに来る。諸費用の計算から落ちやすい
翌年
固定資産税の納税通知書が届く(毎年1月1日時点の所有者へ)
引渡し年の分は決済時に日割りで精算している
翌年の確定申告
住宅ローン控除を受ける場合、初年度は確定申告が必要
2年目以降は年末調整で足りる(給与所得者の場合)
売るときのことも、買うときに決まっている
最後に、出口の話を1つだけ。
買った価格と、そのときの取得費[5]は、売却時の税の計算に使われます。譲渡所得は「収入金額 −(取得費+譲渡費用)」で計算し、建物部分の取得費は減価償却した分だけ小さくなります。
つまり購入時の契約書は、10年後・20年後に必要になる書類です。売買契約書、仲介手数料の領収書、登記費用の明細。これらを失うと、取得費を証明できず、税が重くなることがあります。