不動産知識大全 業者が言わない数字まで、検算して解説する。
不動産投資 8分で読めます 3,149字

事業的規模(5棟10室) じぎょうてききぼごとうじゅっしつ

5棟10室は所得税基本通達26-9の形式基準。超えると青色申告特別控除・資産損失・貸倒れ・専従者給与の4つが変わる。

この記事の要点

  1. 5棟10室は法律ではなく通達(所得税基本通達26-9)の形式基準
  2. 変わるのは4つ。青色申告特別控除・資産損失・貸倒れ・専従者給与
  3. 青色申告特別控除の55万・65万は「事業」を営む者に限られる
  4. 事業でなければ、資産損失はその年の不動産所得を限度とする
  5. 届出には期限がある。1月16日以後に開始した場合は2か月以内
目次(8項目)

事業的規模とは、不動産の貸付けが「事業」といえる大きさかどうかの区分です。所得税の世界の言葉で、これに当たるかどうかで税の扱いが変わります。

その目安として広く使われているのが、いわゆる5棟10室です。貸せる部屋がおおむね10室以上、または独立家屋がおおむね5棟以上、という基準を指します。

この基準がどこに書かれていて、超えると何が変わるのか。 そこが本題です。

5棟10室は、法律ではなく通達にある

形式基準を示しているのは、法律ではなく通達(所得税基本通達26-9)です。

変わるのは4つ

国税庁が挙げている4つ

事業的規模のとき

  • 青色申告特別控除は最高55万円または65万円
  • 資産損失は全額を必要経費に(51条1項)
  • 貸倒損失を必要経費に(51条2項)
  • 青色事業専従者給与/白色の事業専従者控除が使える

帳簿と届出の負担は、そのぶん重くなる。

事業的規模でないとき

  • 青色申告特別控除は最高10万円
  • ★資産損失はその年の不動産所得を限度(51条4項)
  • 貸倒れは64条1項で「なかったものとみなす」
  • 専従者の制度は使えない

控除の差だけで、課税所得が45万円から55万円変わる。

★4つとも、条文が「事業」という語で線を引いています。5棟10室は、その線をどこに引くかの目安です。

条文は所得税法[2]租税特別措置法[3]にあります。不動産所得そのものの仕組みは国税庁 No.1370[4]にあります。

1. 青色申告特別控除 — 10万円と65万円の差

措置法25条の2の3段構え
  • 1項 … 10万円(承認を受けていれば、規模を問わない)1 
  • 3項 … 55万円(★「事業」を営む者が、一切の取引を詳細に記録している場合)1 
  • 4項 … 65万円(3項に加えて、電子帳簿保存または e-Tax のいずれか)1 

★3項が「不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営むもの」と書いています。事業的規模でなければ、正規の簿記で記帳していても1項までです。

「正規の簿記で記帳すれば65万円」ではありません。 記帳の方法と、規模の両方が要ります。

なお1項も3項も、控除額は所得の額が上限です。所得が20万円しかなければ、控除も20万円までです。

2. 資産損失 — 限度があるかどうか

建物を取り壊した・滅失したとき

その貸付けは事業として行われているか

  • 事業的規模

    51条1項 — 必要経費に算入する

    • 金額の限度は条文に書かれていない
    • 損失で不動産所得が赤字になれば、損益通算の対象になりうる
    • 保険金等で補てんされる部分は除かれる

    建替えのために古い建物を壊す場面で効く。

  • 事業的規模でない

    51条4項 — その年分の不動産所得の金額を限度とする

    • ★その損失で不動産所得を赤字にできない
    • 引ききれなかった分は、繰り越せない
    • 雑所得についても同じ扱い

    1室だけ持っている人が建替えると、ここに当たる。

損失で不動産所得が赤字になったときの扱いは、また別の話です。

土地建物の譲渡損失そのものは、原則として他の所得と通算できません。→ 損益通算

3. 貸倒れ — 処理する条文が違う

家賃が回収できなくなったとき

事業的規模 — 51条2項

  • その事業の遂行上生じた債権の貸倒れ
  • 損失の生じた日の属する年分の必要経費に算入
  • その年の所得を減らす形になる

前に進む処理。

事業的規模でない — 64条1項

  • ★「なかったものとみなす」
  • 収入に計上した年の所得計算にさかのぼって効く
  • 64条1項は「事業から生じたものを除く」と書いている

後ろへ戻る処理。

★51条2項と64条1項は、裏表の関係になっています。どちらかに必ず入る形です。

どちらでも救済はされますが、効く年が違います。 さかのぼる処理は、その年の申告をやり直す必要があります。

4. 専従者 — 青色と白色で額が違う

家族に払うもの(所得税法57条)

青色事業専従者給与(1項)

  • 承認を受けている居住者が対象
  • 生計を一にする配偶者その他の親族(★15歳未満を除く)
  • ★「専ら」その事業に従事すること
  • 労務の対価として相当と認められる額

額の上限は条文に書かれていない。相当性で判断される。

白色の事業専従者控除(3項)

  • 配偶者は86万円、それ以外は50万円
  • ★所得を「専従者の数に1を加えた数」で割った額との、低いほう
  • 実際に払っていなくても控除される
  • 届出は要らない(確定申告書への記載が要件)

所得が少ないと、86万円まで届かない。

★どちらも「前条に規定する事業」に従事する者が対象です。事業的規模でなければ、いずれも使えません。

純損失の繰越しは、規模ではなく青色かどうか

数える前に、確かめること

自分がどちらに当たるか

1つ目と2つ目は自分で数えられます。3つ目から先は、確認したほうが安全です。

規模が増えれば、減価償却の額も、経費の管理の手間も増えます。控除の差だけで判断するものではありません。

手元に残る額で比べるなら、実質利回りの計算に税を織り込んでください。★控除が45万円増えても、税率が20%なら手取りの差は9万円です。

よくある質問

5棟10室は法律に書かれていますか?
法律ではありません。国税庁のタックスアンサー No.1373 が根拠として挙げているのは、所得税法26条・51条・57条・64条、租税特別措置法25条の2、そして所得税基本通達26-9です。★形式基準を示しているのは通達です。貸間・アパート等については「貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること」、独立家屋については「おおむね5棟以上であること」と書かれています。
超えると何が変わりますか?
国税庁が挙げているのは4つです。賃貸用固定資産の資産損失の必要経費算入、賃貸料等の回収不能による貸倒損失の扱い、青色事業専従者給与または白色の事業専従者控除の適用、そして青色申告特別控除の額です。★このうち金額として最も大きいのは、青色申告特別控除が最高10万円から最高55万円または65万円になることです。
青色申告特別控除は、10室未満だといくらですか?
最高10万円です。租税特別措置法25条の2第3項は、55万円の控除を「不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営むもの」に限っています。★事業的規模でなければ、正規の簿記で記帳していても1項の10万円までです。65万円は3項の要件に加えて、4項の電子帳簿保存またはe-Taxによる送信のいずれかを満たした場合です。
建物を取り壊したときの損失は、どう変わりますか?
限度が変わります。所得税法51条1項は、事業の用に供される固定資産の取りこわし・除却・滅失等による損失を必要経費に算入するとしています。金額の限度は書かれていません。一方4項は、事業に至らない業務の資産の損失について「その年分の不動産所得の金額を限度として」必要経費に算入するとしています。★事業的規模でなければ、その損失で不動産所得を赤字にすることはできません。
家賃が回収できなくなったときは?
処理する場所が違います。事業的規模なら、所得税法51条2項により、その年分の不動産所得の計算上、必要経費に算入します。事業でない場合は64条1項で、回収できなくなった部分を「なかったものとみなす」ことになります。★64条1項は「不動産所得を生ずべき事業から生じたものを除く」と書いていて、51条2項と裏表になっています。収入に計上した年の所得計算にさかのぼって効く形です。
家族に給与を払えますか?
事業的規模であることが前提です。所得税法57条1項は、青色事業専従者を「専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの」としています。年齢15歳未満の親族は除かれます。★届出には期限があり、その年3月15日まで、その年1月16日以後に事業を開始した場合は開始から2か月以内です(57条2項)。白色の場合は3項の事業専従者控除で、配偶者86万円・その他50万円と、所得を専従者の数に1を加えた数で割った額のいずれか低いほうです。

出典 番号は本文中の [n] に対応します

  1. 所得税法(昭和四十年法律第三十三号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 昭和40年

    確認日 2026-09-02

  2. 租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 昭和32年

    確認日 2026-09-02

この分野の全体像

関連する解説