不動産知識大全 業者が言わない数字まで、検算して解説する。
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損益通算 そんえきつうさん

損益通算とは、ある所得の赤字を他の所得の黒字から差し引くこと。不動産所得の赤字は給与などと通算できるが、土地の取得に要した借入金の利子に相当する部分は除かれる。

この記事の要点

  1. 不動産所得の赤字は、給与など他の所得と通算できる(所得税法69条1項)
  2. ただし土地等を取得するための借入金の利子に相当する部分は「生じなかったものとみなす」
  3. 借入額が土地の分まで及んでいると、赤字が出ても還付がゼロになることがある
  4. 同じ赤字額でも、課税所得の水準で戻る額が変わる。他人の事例は当てにならない
  5. 減価償却で作った赤字は、売却時に取得費が減る形で戻ってくる。繰り延べに近い
目次(6項目)

損益通算とは、ある所得の赤字を、他の所得の黒字から差し引くことです。

投資用不動産の販売で「節税になります」と説明されるとき、指しているのはこの仕組みです。

問題は、試算どおりの額が戻るとは限らないことです。理由が2つあります。

理由1 ― 土地の借入利子は、通算から外れる

これが最も大きく効きます。

さらに、この「相当する部分」の計算方法が政令で決められています。

措置法施行令26条の6が定める2つの場合

土地の借入利子 > 赤字の額

  • 損失の金額の全額が対象
  • つまり通算できる額はゼロ
  • 赤字が出ていても還付は無い

赤字が小さいほど、この状態になりやすい。

土地の借入利子 ≦ 赤字の額

  • 損失のうち負債の利子の額に相当する額が対象
  • 差額だけが通算できる
  • 減価償却が大きいときはこちら

通算できるが、試算より小さくなる。

実際に計算する

中古のワンルームを、フルローンで買った場合で見ます。

前提

物件価格

2,400万円

建物1,000万・土地1,400万

借入

2,400万円

金利2.0%・35年

家賃

8.0万円

月額

建物の耐用年数

31

RC造・築20年

初年度の収入と経費(円)
  • 家賃収入960,000円
  • 支払利息475,630円
  • 減価償却330,000円
  • 管理費・修繕積立金144,000円
  • 固都税・管理料・その他138,000円

不動産所得は ▲127,630円 の赤字です。ここまでは販売資料と同じになります。

通算できる額を出す

土地等に係る負債 = 2,400万円 − 1,000万円 = 1,400万円

土地等の負債の割合
1,400万 ÷ 2,400万 = 58.3%
土地等に係る負債利子
475,630円 × 58.3% = 277,451円
赤字の額
127,630円

負債利子277,451円 > 赤字127,630円。措置法施行令26条の6第1号に当たる。

赤字は出ています。手元からも現金が出ています。それでも税は1円も戻りません。

頭金を入れると、どうなるか

同じ物件で、頭金1,400万円を入れて借入を1,000万円(建物価格と同額)にした場合を計算します。

借入額だけを変えた場合

フルローン 2,400万円

  • 初年度の支払利息 475,630円
  • 土地等に係る負債 1,400万円
  • 不動産所得 ▲127,630円
  • 通算できる額 0円 → 還付 0円

赤字は出るが、通算はできない。

借入 1,000万円

  • 初年度の支払利息 198,179円
  • 土地等に係る負債 0円
  • 不動産所得 +149,821円
  • 黒字なので通算するものが無い

通算の制限は消えるが、赤字も消える。

通算が実際に効く場合

制限があるからといって、常に効かないわけではありません。減価償却が大きい場合は通算できます。

理由2 ― 還付額は、人によって違う

同じ赤字でも、戻る額は課税所得の水準で変わります。累進課税だからです。

同じ▲60万円を通算した場合に減る税

課税所得 300万円

121,260

課税所得 400万円

182,520

課税所得 950万円

251,948

所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた概算です。

自分で確かめる手順

「節税になる」と言われたら、この順で確かめる

2つ目と3つ目は、紙とペンでできます。 相手に計算してもらう必要はありません。

不動産所得の計算の枠組みは国税庁の案内[4]に、損益通算の全体像は損益通算の説明[3]にあります。どちらも一次の資料です。

よくある質問

不動産所得の赤字は、給与と通算できますか?
できます。所得税法69条1項は、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の計算上生じた損失を、政令で定める順序により他の各種所得から控除すると定めています。投資用不動産の販売で「節税になる」と説明されるのは、この仕組みを指しています。ただし通算できる範囲には制限があり、特に土地の取得に要した借入金の利子に相当する部分は除かれます。
土地の借入利子が除かれるとは、どういうことですか?
租税特別措置法41条の4により、不動産所得の損失のうち、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分は「生じなかつたものとみなす」とされています。さらに同条の政令(措置法施行令26条の6)は、負債利子の額が損失の額を超える場合には損失の金額全額が対象になると定めています。つまり赤字の額より土地の借入利子のほうが大きければ、通算できる額はゼロになります。
フルローンだと不利になりますか?
土地の分まで借りることになるため、通算できない部分が大きくなります。措置法施行令26条の6第2項は、土地と建物を一の契約で同時に取得し負債を区分しがたい場合、負債はまず建物の取得の対価に充てられ、次に土地等に充てられたものとして計算できると定めています。したがって借入額が建物の価格以下であれば、土地等に係る負債はゼロになります。逆にフルローンなら、建物価格を超えた部分がすべて土地等の負債として扱われます。
還付額は誰でも同じですか?
違います。累進課税なので、課税所得の水準で戻る額が変わります。同じ60万円の赤字でも、課税所得400万円の人で182,520円、300万円の人で121,260円、950万円の人で251,948円です(復興特別所得税と住民税を含む概算)。販売資料の還付額は、その資料を作った人の所得を前提にした数字です。自分の源泉徴収票で計算し直さないと意味がありません。
減価償却で作った赤字は、得なのですか?
保有中の税は減りますが、売却時に戻ってきます。建物の取得費からは保有期間中の減価償却費相当額が差し引かれるため、償却したぶん取得費が小さくなり、譲渡所得が大きくなります。節税というより繰り延べに近い、というのが実際に合った理解です。さらに償却期間が終われば赤字は消え、以後は黒字として課税されます。何年で何が起きるかを先に並べてから判断してください。

出典 番号は本文中の [n] に対応します

  1. 所得税法(昭和四十年法律第三十三号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 昭和40年

    確認日 2026-08-19

  2. 租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)

    e-Gov 法令検索(デジタル庁) 昭和32年

    確認日 2026-08-19

  3. No.2250 損益通算

    国税庁

    確認日 2026-08-19

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